敷金って、もともと何のお金?|お部屋探し今むかし 明治編①

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「敷金って、もともと何のお金?」のタイトルと、障子と畳の廊下が続く和風建築の写真。「敷金」の印のイラスト入り
写真:旧岩崎邸の和館(撮影:Ryunosuke Kikuno/Unsplash)。明治に建てられた邸宅です。小説の貸家ではありません。イメージです。「敷金」の印もイメージです。

今回から明治編です。最初のテーマは、敷金。部屋を借りるときに預ける、あのお金です。

言葉の出どころを確かめようと辞書を引いて、手が止まりました。意味が6つもあったのです。

「敷金」には、6つの意味があった

『精選版 日本国語大辞典』の「敷金」には、次の意味が並んでいます。

1. 江戸時代、市場取引での証拠金・手付金
2. 江戸時代、問屋が生産者などに渡した前貸金
3. 倉庫の保管料
4. 謝礼の金。礼金
5. 家屋などを借りるとき、借主が貸主にあらかじめ差し出す金銭
6. 婚姻の際の持参金

私たちが知っている敷金は、5番めです。

持参金も、礼金も、「敷金」だった

6番めの持参金には、正徳5年(1715年)の本から、こんな用例が引かれています。「敷金持て来る女房は夫を尻に敷くから」。持参金つきで来た奥さんには頭が上がらない、という話のようです。敷金で、尻に敷く。300年前の人も、言葉遊びが好きだったのでしょう。

4番めには、目を疑いました。「謝礼の金。礼金」。用例は、寛永14年(1637年)の浄瑠璃です。いまは別々に請求される敷金と礼金が、辞書の上では、同じ言葉の中に並んでいました。

どの意味にも共通するのは、「先に差し出すお金」というところでしょうか。ここは私の推測です。

瓦屋根の門がある日本家屋
むかし:門のある家(撮影:PJH/Unsplash)。『うつせみ』の貸家ではありません。イメージです。

家を借りる敷金は、樋口一葉の小説に

5番めの、家を借りるときの敷金。辞書が用例として挙げているのは、樋口一葉の小説『うつせみ』です。明治28年(1895年)に、読売新聞に載りました。

物語は、一軒の貸家から始まります。場所は、小石川の植物園の近く。門の柱に札を貼ってから3か月ほどたつのに、借り手が決まりません。条件は、こうです。

「敷金三月分、家賃は三十日限りの取たてにて七圓五十錢」

敷金は3か月分。家賃は7円50銭。計算すると、敷金は22円50銭になります。

そこへ、ひとりの男が差配のところに来て、この家を見たいと言います。そして、その場で決めました。「今日より直にお借り申まする、敷金は唯今置いて參りまして」。

小説ですから、実際の取引の記録ではありません。それでも、明治の部屋探しの流れがよく分かります。門の札を見る。差配に声をかける。家を見る。敷金を置く。

「差配」は、持ち主に代わって貸家を管理する人のことです(デジタル大辞泉)。江戸編⑥の「家守」と同じ役回りです。貸家の札も、江戸編①で調べた貸家札そのもの。時代が明治になっても、部屋探しの道具は江戸のままでした。

民法に「敷金」の定義が入ったのは、2020年

いまの民法が作られたのは、明治29年(1896年)です。

ところが、法務省の資料には、こう書かれています。「改正前の民法には,敷金の定義や敷金返還請求権の発生時期についての規定はありませんでした」。

定義が入ったのは、2020年4月の改正です。民法ができてから、約120年たっていました。

いまの敷金は、「預けるお金」

いまの民法は、敷金を、名目を問わず、家賃などの支払いを担保するために借主が貸主に渡すお金、と定めています(第622条の2。言い回しはやさしく直しました)。

預けたお金なので、契約が終わって部屋を返したら、未払いの家賃などを差し引いた残りが返ってきます。ふつうに暮らしてできた傷みや、年月による変化は、借主が元に戻す義務を負わない。これも、同じ改正ではっきり書かれました。

机の上の書類にサインをする手元
いま:敷金のことは、契約の書面で確かめられます(撮影:Leon Seibert/Unsplash)。イメージです。

契約のときは、「敷金はいくらか」だけでなく、「退去のとき、何が差し引かれる約束になっているか」まで確かめてください。約130年前の一葉の貸家と違って、いまは書面で説明を受けられます。

なお、家を借りるときに敷金を預ける習慣が、いつ始まったのかは分かりませんでした。1895年は、辞書が挙げている用例の年です。習慣が始まった年ではありません。辞書の「しきがね」の項には、不動産を借りるときに預ける保証金、という意味も載っています。もっと古い可能性があります。

確かめた資料:コトバンク「敷金」(精選版 日本国語大辞典)/青空文庫 樋口一葉『うつせみ』/法務省 民法改正のパンフレット/法務省 民法(債権法)改正。

次回の明治編は、学生の町に増えた「下宿屋」の話です。あしたの「いま編」は、初期費用。敷金の話の続きでもあります。

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